2009年11月16日

兄の命日

暦の上では、明日は兄の命日。

顔も知らない。
墓もない。
満州から引き上げてきて、戦後の食糧難の中で西鉄の電車内で死んだ。

「夜、リヤカーでオヤジが遺骸を運び、何処に埋めたのか誰も知らない。」 オヤジの葬儀のあとで、長姉がそう漏らした。

「直樹が生きていたら、あんたは生まれていなかった。」 死んだお袋の口癖だった。

中国残留邦人の話がTVで報道されると、「あれは、子供を売ったとじぇっ。僅かなコーリャンや稗と交換したと。名乗り出る事は出来ん。」 暗い眼をしてオヤジはそう呟いた。
「人殺し以外の事は何でもした。」 それ以上、何も語ろうとしなかった。

お袋が逝く時、オヤジは家族を誰も呼ばず、戦友を弔うかのように一人で静かに見送った。
乾いた眼で、いつも遠くを見ていたオヤジも2年前に逝ってしまった。

「直樹」 位牌の中の一片の板に書かれた名前…それが兄がつかの間生きた証。



明日は位牌に花を飾ろう…。

posted by ハル at 12:00| Comment(0) | 忘備録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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